3.4.3 P波速度構造モデル

 図3.4-3(1)(7) に各速度層上面標高のコンター図、(9) にそれらの鳥瞰図、(8) に工学的基盤の等層厚線図を示す。また、図3.4-4(1)(4) に東西方向の地質および速度構造断面、(5) および (6) に南北方向の地質および速度構造断面を示す。
 工学的基盤は東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県の被害想定報告書資料を用いて作成した。工学的基盤の基準は各県でやや異なるため、N値50、S波速度500m/sを基準として、ボーリング資料を再検討し、等層厚線図を作成した。
 各速度層の分布は次のとおりである。

  • =5.5km/s層上面
     本速度層の上面標高は、東京都と神奈川県の境界付近を境として、その南側で急激に深くなっている。横浜市から房総半島中部にかけての地域と相模湾で最も深く、最深部は6,000mをこえている。横浜市から相模トラフにかけて最深部の谷が連続しているが、これは109測線と113測線のデータを結んだ結果である。嶺岡−葉山隆起帯が平塚市付近にのびるとすれば、横浜市付近と相模トラフの最深部は分離される可能性もある。現状、海岸線付近のデータがないので、連続した構造のままとした。
     図3.4-5に関東平野における先新第三系の分布を示す。関東平野下の先新第三系は、北から足尾・八溝帯、領家帯、三波川帯、秩父帯、四万十帯北帯および南帯からなる。本速度層上面標高コンター図と先新第三系の分布を重ね合わせると、秩父帯と四万十帯の境界付近を境として、その南側で5.5km/s層が急激に深くなっている。先新第三系のうち、北側の足尾・八溝帯〜秩父帯が本来の基盤岩類であり、P波速度は5.5km/s以上であるが、四万十帯(とくに南帯)は地質年代が若く、地層そのものの速度値は5km/sに達しないものと考えられる。そのため、秩父帯より北側ではでは、5.5km/s層上面の深度が浅く、南側の四万十帯で深くなっている。
  • =4.8km/s上面
     嶺岡−葉山隆起帯より北の関東平野では、本速度層上面は先新第三系上面位置とほぼ一致している。そのため、先新第三系及び相当層上面等深線図と本速度層上面のコンター図は似た形状をなす。一方、嶺岡−葉山隆起帯より南では、先新第三系にも、風化帯による低速度層が認められる。相模トラフのプレート境界に近づくほど深くなる。
  • =4.3km/s上面
     本速度層は三浦層群の下部に相当する。図3.4-4(1)(3)の地質および速度構造断面図に示すように、本速度層は神奈川県の西側に分布し、東に傾斜した形状をなす。そのため、本速度層上面の深度は横浜市付近でやや浅くなり、千葉市から富津岬付近が最深部になっている。
  • =3.5km/s上面
     本速度層は三浦層群の中部に相当する。図3.4-4(1)(3) のように、本速度層上面は西から東へ傾斜した形状をなす。そのため、 =4.3km/s層と同様に、横浜市付近でやや浅くなり、最深部は千葉市南方付近にある。
  • =3.1km/s上面
     本速度層は三浦層群の上部に相当する。そのため、本速度層上面コンター図は三浦層群上面(上総層群基底面)の等深線図とほぼ一致している。千葉市付近に最深部がある。
  • =2.1km/s上面
     本速度層は上総層群の分布とほぼ一致している。上面は下総層群との地質境界よりやや下方に位置する。千葉市南方から夢の島にかけて最深部がある。

 各速度層と地質との関係をみると、嶺岡−葉山隆起帯より北方の関東平野では、地質と速度層の関係が明瞭である(図3.4-4(1)(6) 参照)。すなわち、 =2.1km/s層は上総層群の分布と一致する。また、 =4.8km/s層の上面は先新第三系上面(三浦層群との地質境界)にほぼ一致している。3.1、3.5および4.3km/s層は三浦層群の上部、中部、下部に相当する。
 先新第三系は4.8および5.5km/sのP波速度からなる。両速度層の境界は地質境界ではないが、4.8km/s層は関東平野の北側で薄く、南ほど厚くなる傾向が認められる。前述したように、四万十帯は一般に5km/s未満のP波速度をなすと考えられる。しかし、屈折法地震探査によると、四万十帯でも5.5km/sが観測されている。四万十帯における5.5km/s層は地質の違いではなく、圧密によるものと推定される。このような地質構造を反映して、南部ほど4.8km/s層が厚く、5.5km/s層が深くなっている。
 嶺岡−葉山隆起帯では、先新第三系が露出している地域がある。これらの地域では、風化により表層に低速度層が分布しており、地質との関係は明瞭ではなくなる。

 3.4.4 物性値

 表3.4-2に各速度層の物性値を示す。S波速度と密度は、Ludwig et al. (1970) の関係図によりP波速度から推定した(図3.4-6)。深層観測井の速度検層および音波検層などから、PおよびS波速度と密度の関係を検討したが、Ludwig et al. (1970)の関係図よりもS波速度がやや小さい傾向がみられ、本検討では採用しなかった。


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