J-SHIS Labs

Morikawa and Fujiwara (2013) に基づく地震動予測式

2023年12月
森川信之・藤原広行
国立研究開発法人防災科学技術研究所

防災科学技術研究所では、応答スペクトルに関する地震動ハザード評価および最大加速度のマップを作成している (藤原・他、2023)。 また、地震調査研究推進本部は、2022年に応答スペクトルに関する地震動ハザード評価 (試作版)を公表した (地震調査委員会強震動評価部会、2022)。 これらの評価における地震動予測式の適用について解説する。

なお、以下の解説に従って地震ハザード評価を行う際には次の文献を引用すること。

森川信之, 藤原広行 (2023): Morikawa and Fujiwara (2013)に基づく地震動予測式, https://www.j-shis.bosai.go.jp/labs/mf2013

地震動予測式は、Morikawa and Fujiwara (2013)を基本とする。ただし、地盤増幅に関する補正の改良版 (森川・藤原、2014)およびフィリピン海プレートで発生する深さ60km程度より浅いプレート内地震に対する追加補正項 (森川・藤原、2015)を適用する。

地震動予測式は次式で表され、マグニチュードに関する2次式によるモデルを適用する。

最大加速度、最大速度、減衰定数5%加速度応答スペクトル (A)

\begin{align} {\log_{10} A =}{a \cdot \left( Mw^{'} - 16 \right)^2 + b_{k} \cdot X + c_{k} - \log_{10}\left( X + d \cdot 10^{0.5Mw^{'}} \right)} + G_{d} + G_{s} + AI + PH + \sigma \tag{1} \\ ただし、Mw^{'} = \min_{}(Mw,8.2) \end{align}


以下では、上式に示したMorikawa and Fujiwara (2013)に基づく地震動予測式について、基本式、深部地盤の補正項\(G_{d}\)、浅部地盤の補正項\(G_{s}\)、異常震域の補正項\(AI\)、フィリピン海プレートのプレート内地震の補正項\(PH\)、ばらつき\(\sigma\)にわけて説明する。

(1) Morikawa and Fujiwara (2013)の基本式

Morikawa and Fujiwara (2013)による地震動予測式の基本式は次式で表される。

最大加速度、最大速度、減衰定数5%加速度応答スペクトル (A)

\begin{align} {\log_{10} A =}{a \cdot \left( Mw^{'} - 16 \right)^2 + b_{k} \cdot X + c_{k} - \log_{10}\left( X + d \cdot 10^{0.5Mw^{'}} \right)} \tag{2} \\ ただし、Mw^{'} = \min_{}(Mw,8.2) \end{align} \begin{align} Mw &: モーメントマグニチュード \\ X &: 断層最短距離 {[}km{]} \\ a, b_k, c_k ,d &: 回帰係数 \end{align}

※ 下付きの\(k\)は地震タイプを表し、以下にわけられる。 \begin{align} 1 &: 地殻内地震+日本海東縁の地震 \\ 2 &: 海溝型プレート間地震 \\ 3 &: 海溝型プレート内地震 \end{align}

この基本式は、全ての地震、および全ての評価地点に対して適用される。Morikawa and Fujiwara (2013)では断層最短距離が200km以内の地震観測記録により構築されているが、断層最短距離が200km以遠の場合でもそのまま外挿して適用する。

(2) 深部地盤の補正項

深部地盤の補正項は全ての地震動強さ指標に対して共通に用いられ、次式で表される。

\[ {G_{d} = p_{d} \cdot \log_{10}}\left\{ \frac{\text{max}\left( D_{l\ \rm min},D_{1400} \right)}{300} \right\} \tag{3} \] \begin{align} D_{1400} &: 評価地点におけるV_{s}=1400m/s層上面までの深さ {[}m{]} \\ p_{d}, D_{l\ \rm min} &: 回帰係数 \end{align}

この深部地盤の補正項についても、基本式と同様に、全ての地震、および全ての評価地点に対して適用される。深部地盤モデルは、全国地震動予測地図2020年版で用いられている、J-SHIS V3.2 (藤原・他、2023)を用いる。ただし、深部地盤モデルの無い小笠原諸島等については、\(G_d\)を一律0 (ゼロ)としている。また、\(V_{s}\)= 1400m /sの層が無い地点は、回帰式作成時と同条件のその下の層の上面深さを用いる。

(3) 浅部地盤の補正項

浅部地盤の補正項は、深部地盤の補正項と同様に、全ての地震動強さ指標に対して共通に用いられ、次式で表される。

\[ {G_{s} = p_{s} \cdot \log_{10}}\left\{ \frac{\text{min}\left( V_{S\rm max},AVS30 \right)}{350} \right\} \tag{4} \] \begin{align} AVS30 &: 評価地点における深さ30mまでの平均S波速度 {[}m/s{]} \\ p_{s}, V_{S\rm max} &: 回帰係数 \end{align}

※注: 藤原・他 (2023)では誤記があり、上記(4)式が正しい

なお、工学的基盤 (\(AVS30\)=400m/s)での評価においては、次式を用いる。

\[ {G_{s} = p_{s} \cdot \log_{10}}\left\{ \frac{\text{400}}{350} \right\} \cong p_{s} \times 0.058 \tag{5} \]

(4) 異常震域の補正項

異常震域の補正項は、全ての地震動強さ指標に対して共通に用いられ、次式で表される。

\[ AI = \gamma \cdot X_{vf} \cdot (H - 30) \tag{6} \] \begin{align} X_{vf} : & 評価地点における火山フロントまでの距離{[}km{]}\\ &ただし、西日本でX_{vf} > 75の場合はX_{vf} = 75 \\ H : & 震源の深さ {[}km{]} \\ \gamma : & 回帰係数 (東北日本:\gamma_{\rm NEJapan}、西南日本:\gamma_{\rm SWJapan}) \end{align}

火山フロント位置は、東北日本は森川・他 (2006)を、西南日本は地震調査委員会 (2009)、藤原・他 (2009)を用いる。 ただし、東北日本に関して、日本の第四紀火山カタログを参照し、伊豆・小笠原諸島まで拡張している (藤原・他、2009)。 東北日本 (太平洋プレート)の地震は深さ30km以深の全ての地震について、北緯36度以北の評価地点に対して適用する (実際には北緯36.5度~35.5度の範囲で変化させる)。 西南日本 (フィリピン海プレート)の地震は深さ60km以深の九州~南西諸島にかけての地域における地震について、東経136.9度以西の評価地点に対して適用する。 そして、「震源の深さ」は、断層面の中心深さを採用する。

(5) フィリピン海プレートのプレート内地震の補正項

フィリピン海プレートのプレート内地震に対しては、森川・藤原 (2015)による補正項\(PH\)を用いる。

(6) ばらつき

ばらつきについては、最大加速度を含めてすべての周期ポイントに対して暫定的に全国地震動予測地図と同じものを用いる。すなわち、活断層などの浅い地震に対しては断層最短距離 (\(X\))に依存する

\[\sigma = \left\{ \begin{matrix} 0.23 & X \leqq 20km \\ 0.23 - 0.03 \cdot \frac{\log_{10}\left( X/ 20 \right)}{\log_{10}\left( 30/ 20 \right)} & 20km < X \leqq 30km \\ 0.20 & 30km < X \\ \end{matrix} \right.\ \tag{7}\]

を、海溝型地震に対しては振幅に依存する

\[ \sigma = \left\{ \begin{matrix} 0.20 & PV \leqq 25cm/s \\ 0.20 - 0.05 \cdot \frac{PV - 25}{25} & 25cm/s < PV \leqq 50cm/s \\ 0.15 & 50cm/s < PV \\ \end{matrix} \right.\ \tag{8}\]

を用いる。ただし、\(PV\)は司・翠川 (1999)の式より求められる硬質地盤 (\(V_{s}\) = 600m/s)上での最大速度である。

参考文献