2.3.6 南西諸島付近の震源断層を予め特定しにくい地震

A. モデル化の基本方針

 南西諸島付近の地震については、観測網の制約から震源データの精度が必ずしも十分ではなく、過去に発生した地震をタイプ別に分類することが困難なため、「日向灘および南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価」(地震調査研究推進本部地震調査委員会, 2004)では、「南西諸島周辺の浅発地震(概ね60km以浅)」、「与那国島周辺の地震(概ね100km以浅)」、「九州から南西諸島周辺のやや深発地震(概ね60km程度以深、150km程度以浅)」に分けて評価されている。震源断層を予め特定しにくい地震についても、上記に整合するようにモデル化する。ただし、九州から南西諸島周辺のやや深発地震については、フィリピン海プレートのプレート内地震(グループ4の地震)として扱っていることから、ここでは、南西諸島周辺の浅発地震と与那国島周辺の地震のうち大地震以外の地震をあわせて「南西諸島付近の震源断層を予め特定しにくい地震」と呼ぶ。
 南西諸島付近の震源断層を予め特定しにくい地震は、「確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定−北日本)」(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会・強震動評価部会, 2003)、および「震源を予め特定しにくい地震等の評価手法について(中間報告)」(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会, 2002)を参考に、以下のようにモデル化する。

B. 評価手法と条件

(1) 地域区分の有無
地域区分する方法と地域区分しない方法の2種類を併用する。
(2) 地震の発生場所
 地域区分する方法を用いる場合には、区分された地域内で一様ランダムとする。地域区分しない方法では、smoothed seismicity の考え方に基づき、微小な領域ごとの地震発生頻度を評価する。
(3) 地域区分
 「日向灘および南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価」(地震調査研究推進本部地震調査委員会, 2004)で設定されている領域に基づいて地域区分する。
(4) 地震カタログ
 対象領域における観測網の制約を勘案し、気象庁カタログのうち1983年以降のマグニチュード5.0以上の地震のみを用いることとし、他の領域のように中地震と小地震のカタログの併用は行わない。余震はマグニチュード6.0以上の地震の発生後90日以内に、震央を中心とする次式(建設省土木研究所, 1983)で表される面積 () の円内で発生した地震を余震とみなし、機械的に除去する。
log = - 3.2 (2.3.5-1)
前震および群発地震は除去しない。
 対象とする地震は、与那国島周辺の地震については深さ100km以浅、南西諸島周辺の浅発地震については震源深さ60km以浅である。ただし、南西諸島周辺の浅発地震と、九州から南西諸島周辺のやや深発地震の領域は、地表投影面では重複するが、深さ方向の両者の位置関係は図2.3.6-1に示すとおりである。この際、やや深発地震の領域の東側(図2.3.6-1では右側)では、震源が深く決定される傾向があるため、地震カタログで深さ60km以深とされる地震についても、震央位置の情報を優先し、深さ60km以浅の地震とみなすこととする。なお、海溝型地震として別途評価されている地震は地震カタログから除去することになるが、地震発生頻度の評価に用いる1983年以降については該当する地震はない。
(5) 地震規模の確率分布
上限値を有するGutenberg-Richter式( 値モデル)でモデル化する。
Gutenberg-Richter式の 値は0.9に固定する。
(6) 深さ
 当該地域の長期評価では、南西諸島周辺のやや浅発地震は深さ60km以浅の地震が、また与那国島周辺の地震は深さ100km以浅の地震が、それぞれ一括して取り扱われている。実際には、陸側プレートの内部で発生する地震、フィリピン海プレートの上面で発生する地震、フィリピン海プレートの内部で発生する地震が混在していると考えられるが、これらの頻度の割合を分離することは困難である。そこで、南西諸島周辺の浅発地震については断層面の中心の深さを30km、与那国島周辺の地震については断層面の中心の深さを40kmにそれぞれ固定する。
(7) 断層面
 南西諸島周辺の浅発地震の断層面は、深さ30kmを断層面の中心として、地震規模に応じた拡がりを有する円形の断層面を仮定し、走向はこの領域における海溝軸を参考にN45E、傾斜角は北西傾斜45度とする。これは、最大マグニチュード7.7の場合でも地表には突き抜けない条件となっている。
 与那国島周辺の地震の断層面は、深さ40kmを断層面の中心として、地震規模に応じた拡がりを有する円形の断層面を仮定し、走向はこの領域における海溝軸を参考にN90E、傾斜角は北傾斜45度とする。
 上記のいずれの場合も、円形断層の面積 () は宇津・関(1955)の式の係数を丸めた
log = - 4.0 (2.3.5-2)
を満足するようにマグニチュードに応じて設定する。
(8) 最小マグニチュードと最大マグニチュード
 ハザード評価で考慮する最小マグニチュードは5.0とする。
 最大マグニチュードは、地域区分された領域それぞれについて、長期評価での記載に基づき設定する。
(9) 地震の発生時系列
ポアソン過程とする。
(10) 想定する地震のタイプ
 異なるタイプの地震が混在するが、地震動の評価(距離減衰式の適用)にあたっては、プレート間地震を想定する。
(11) モーメントマグニチュード への変換
モーメントマグニチュード は、 と同じとする。

C. 地域区分とパラメータ

(1) 地域区分
 当該地域の長期評価に基づき、図2.3.6-2に示す区分とする。
(2) 領域内に含まれる地震のデータ
 区分した領域に含まれる地震のうち、1983年から2002年の気象庁カタログ(マグニチュード5.0以上)の震央分布を図2.3.6-3に示す。
 また、このデータに基づく地震の規模別累積発生頻度を図2.3.6-4に示す。
(3) 最大マグニチュード
 南西諸島周辺の浅発地震の領域は、当該領域における長期評価の中で過去の地震に関する記述はあるものの発生確率等の評価がされておらず、2.3.2で海溝型地震としてはモデル化していないことから、すべての地震を震源断層を予め特定しにくい地震として取り扱うこととし、最大マグニチュードを7.7とする。
 与那国島周辺の地震のうちマグニチュード7.5以上のものは、長期評価に基づき海溝型地震として別途モデル化されている。したがって、震源断層を予め特定しにくい地震の最大マグニチュードは、マグニチュード7.4以下の地震のうち過去に発生した地震の最大値である7.3に設定する。領域ごとの最大マグニチュードとその根拠を表2.3.6-1に示す。
(4) 発生頻度の分布
 図2.3.6-5に、南西諸島周辺の地震の発生頻度(0.1度×0.1度の領域で1年間にマグニチュード5.0以上の地震が発生する頻度)の分布を示す。これは、1983年以降のマグニチュード5.0以上の地震に基づく 1)地域区分する方法と2)地域区分しない方法の2ケースの頻度を平均したものである。

2.3.6の参考文献

  • 地震調査研究推進本部地震調査委員会(2004):日向灘および南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価,平成16年2月27日.
  • 地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会(2002):震源を予め特定しにくい地震等の評価手法について(中間報告),平成14年5月29日.
  • 地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会・強震動評価部会(2003):確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定−北日本),平成15年3月25日.
  • 建設省土木研究所地震防災部振動研究室 (1983):前・余震の頻度および規模に関する調査,土研資料 No.1995.
  • 宇津徳治・関彰(1955):余震区域の面積と本震のエネルギーとの関係,地震 第2輯, 7, pp.233-240.

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