2.4.2 表層地盤増幅率の評価

A. 基本的な考え方

 地震動評価における表層地盤の増幅率評価については、簡易的に地盤の増幅度を全国同水準に求めることを前提に考える。
 松岡・翠川 (1994) は、地盤情報を含むデータが日本全国1kmメッシュでデータベース化されている国土数値情報を用いる方法を提案している。しかし、松岡・翠川 (1994) では、経験的に地盤の平均S波速度を求める際に関東のデータに基づいており、全国的に用いるには問題があった。
 藤本・翠川 (2003) は、全国のPS検層データから地盤の平均S波速度を求めるように提案した。
 ここでは、藤本・翠川 (2003) の方法を用いて、地盤の増幅度の評価を行った。なお、比較のために松岡・翠川 (1994) の方法による地盤増幅度についても評価を行った。

B. 増幅率評価に用いる国土数値情報および地質図

 地盤を一律に細かく評価した資料として、国土数値情報(国土交通省国土地理院)や100万分の1地質図(独立行政法人産業技術総合研究所地質調査総合センター)などがある。前者については微地形分類、海岸線、主要河川、標高のデータ、後者については表層地質分布から地質年代のデータを使用する事ができる。このうち、地形分類のデータは、全国を約1kmのメッシュに分けて、メッシュごとに評価されている。しかし、これは県を単位とした分析であり、県によって評価の精度が違ったり、表現が異なったりしており、全国的には統一的でない部分もある。また、これらのデータは主に昭和40年代に作成されたためにその後に埋め立てられたり、造成されたりした地域のデータは含まれていない。以上の点を踏まえ、対象地域の地形分類データについて統一的に見直す作業を行った。
 表2.4.2-1に、国土数値情報による地形分類及び表層地質分類と藤本・翠川 (2003) による微地形区分との関係を示す。ここでは、表2.4.2-1の対応関係を基本として、藤本・翠川 (2003) の微地形分類を行うこととした。
 なお、以下の2点について新たに考慮することとした。

@微地形区分の「他の地形(沖積・洪積)」の見直し
 国土数値情報を用いた微地形区分の中にある「他の地形(沖積・洪積)」という分類は、その大半が第四紀に噴火した火山の地形であるが、同地域の地質図と比較すると第三紀以前の岩盤が露出している地域が混在している箇所が多く見られた。そこで、「他の地形(沖積・洪積)」に分類される地域の地質図と照らし合わせて、再分類を行った。
A微地形区分がなされていないメッシュの再評価
 国土数値情報では、湖や海沿いにおいて1kmメッシュの大半が水面部である場合は対象から除外している。このため、メッシュ内に陸がわずかに存在する場合でも、微地形区分が抜けている場合がある。そこで、データが抜けている湖および海沿いのメッシュに対して微地形ないしは地質を追加する作業を行った。

C. 藤本・翠川(2003)による微地形区分および倍率の説明

 松岡・翠川(1994)から変更された点は以下の2つである

  1. 全国における同一地形分類での地盤のAVSは、東北日本・中央日本・西南日本に分類できる。(図2.4.2-1参照)
  2. 新第三紀以前と一つにしていた地形分類は、新第三紀と古第三紀以前の2つに分類できる。

 松岡・翠川(1994)によって示された下式 (2.4.2-1) の関係を用いて、今回新たに区分された(東北日本・中央日本・西南日本)の微地形区分ごとの平均S波速度を算定した。図2.4.2-2に地形分類ごとの平均S波速度の関係を示す。

(2.4.2-1)
地表から地下30mまでの推定平均S波速度(m/s)
係数(表2.4.2-2)
標高(m)
主要河川からの距離(km)

表2.4.2-2 (2.4.2-1) 式における微地形区分ごとの係数

 また、それぞれの微地形区分における標高のデータに係る係数“”と主要河川までの最短距離に係わる係数“”は、実測値データを元に決定した関数によるものなので、表2.4.2-3および表2.4.2-4に示す有効な範囲を設定した。

 松岡・翠川(1994)は、第三紀ないしそれ以前の丘陵地(AVSが600m/sec程度)を基準とした表層地盤の速度増幅度について、下式 (2.4.2-2) を用いて算定することを提案している。


(100 < < 1500)
(2.4.2-2)
;地表から地下30mまでの推定平均S波速度(m/s)
;地表〜地下30mまでの速度増幅度

 なお、標高値や主要河川からの距離によっては平均S波速度が100m/sec未満となる場合が生じるが、ここでは、平均S波速度が100m/sec未満となった場合には、平均S波速度100m/secの速度増幅度で評価するものとした。
 また、(2.4.2-2)式は、平均S波速度が600m/secを基準(増幅度=1.0)としている。今回の予測地図作成に当たっての基盤の評価は、工学的基盤(S波速度400m/sec相当)で行うことを想定しているため、上記増幅度をS波速度400m/secの地盤上に適用する場合には、1.31で割った増幅度を用いる。

 以上の手順のもと、西南日本の国土数値情報を用いた微地形区分と工学的基盤以浅の速度増幅度分布を図2.4.2-3図2.4.2-4に示す。

D. 松岡・翠川(1994)による微地形区分および倍率の説明

 松岡・翠川(1994)では、AVSの推定式 (2.4.2-1) においての各係数 表2.4.2-5に示すとおり設定している。係数 および の範囲は図2.4.2-5および図2.4.2-6より表2.4.2-6および表2.4.2-7の通り設定した。以上の条件のもと、西南日本の国土数値情報を用いた微地形区分と工学的基盤以浅の速度増幅度分布を図2.4.2-7および図2.4.2-8に示す。

2.4.2の参考文献

  • 国土庁計画調整局・国土地理院(1987):「国土数値情報」、国土情報シリーズ2、大蔵省印刷局
  • 松岡昌志・翠川三郎(1993):「国土数値情報を利用した地盤の平均S波速度の推定」、日本建築学会構造系論文報告集、第443号、pp.65-71
  • 松岡昌志・翠川三郎(1993):国土数値情報を利用した広域震度分布予測、日本建築学会構造系論文報告集、第447号、pp.51-56
  • 松岡昌志・翠川三郎(1994):国土数値情報とサイスミックマイクロゾーニング、第22回地盤震動シンポジウム、日本建築学会
  • Masashi Matsuoka and Saburoh Midorikawa(1994):GIS-BASED SEISMIC HAZARD MAPPING USING THE DIGITAL LAND INFORMATION、第9回日本地震工学シンポジウム、1994
  • 藤本一雄・翠川三郎(2003):日本全国を対象とした国土数値情報に基づく地盤の平均S波速度分布の推定、日本地震工学界論文集 第3巻、第3号

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