2.4.1 距離減衰式

A. 工学的基盤における最大速度の距離減衰式

 工学的基盤(S波速度400m/s相当層)での最大速度の距離減衰式は司・翠川(1999)による式を用いる。司・翠川(1999)は、断層面からの距離の取り方として、断層最短距離と等価震源距離を用いた2つの式を求めているが、ここでは断層最短距離を用いた式を採用する。

  (2.4.1-1)
  • : 最大速度(cm/s) :S波速度600m/s相当の硬質地盤上
  • : モーメントマグニチュード
  • : 震源深さ(km)
  • : 地震のタイプ別係数: 地殻内地震   = 0
  •                   プレート間地震 =−0.02
                      プレート内地震 = 0.12
  • : 断層最短距離(km)

 ただし、南海トラフで発生する地震については、モーメントマグニチュード 8.3以上の規模の地震では最大速度は に依存して大きくならない(頭打ち)と仮定して、 の上限を8.3として地震動を評価する。
 距離減衰式のばらつきは対数標準偏差0.53の対数正規分布でモデル化し、分布の裾の打ち切りは行わない。
 また、式(2.4.1-1)の基準地盤はS波速度600m/s相当の硬質地盤なので、基準地盤(S波速度600m/s相当層)から工学的基盤(S波速度400m/s相当層)までの最大速度の増幅率は、松岡・翠川(1994)による表層地盤の速度増幅度算定式

 
            (100 < < 1500)
(2.4.1-2)
 
  • : 地下30mから地表までの速度増幅度
    : 地下30mから地表までの平均S波速度(m/s)

を用いて算定される速度増幅度の比として評価する。具体的にはその比が1.31となるので、式(2.4.1-1)から求められた最大速度 に1.31を乗じたものを工学的基盤上の最大速度 とする。
 気象庁マグニチュード からモーメントマグニチュード への変換は、陸域の浅い地震とそれ以外とに分けて行う。陸域の浅い地震は、武村(1990)による地震モーメント と気象庁マグニチュード の関係式(式(2.4.1-3))と、地震モーメント とモーメントマグニチュード の関係式(式(2.4.1-4))から導かれた式(2.4.1-5)により変換する。それ以外の地震は、気象庁マグニチュード とモーメントマグニチュード は等しい( = )とする。

 

(2.4.1-3)
(2.4.1-4)
(2.4.1-5)
 
  • : 地震モーメント
  • : 気象庁マグニチュード
  • : モーメントマグニチュード

B. 地表における最大速度の評価

 地表における最大速度 は、工学的基盤での最大速度値 に対して、別途算定されている工学的基盤から地表までの増幅度を乗じることにより得られる。

C. 地表における計測震度の評価

 地表における計測震度は、翠川・他(1999)が示している最大速度と計測震度との関係式(式(2.4.1-6))を用いて計算する。

  (2.4.1-8)
  • : 計測震度
  • : 地表面における最大速度(cm/s)

 上記の最大速度と計測震度との関係式における最大速度は水平動2成分を合成した最大速度である。一方、司・翠川(1999)の距離減衰式から求められる最大速度は水平2成分のうち大きい方の値である。このように、厳密な意味では両者の定義が異なるが、本検討では両者の結論に大きな相違はないと考える。

2.4.1の参考文献

  • 松岡昌志・翠川三郎(1994):国土数値情報とサイスミックマイクロゾーニング, 日本建築学会第22回地盤震動シンポジウム, pp.23-34.
  • 翠川三郎・藤本一雄・松村郁栄(1999):計測震度と旧気象庁震度および地震動強さの指標との関係, 地域安全学会論文集, Vol.1, pp.51-56.
  • 司宏俊・翠川三郎(1999):断層タイプ及び地盤条件を考慮した最大加速度・最大速度の距離減衰式, 日本建築学会構造系論文集, 第523号, pp.63-70.
  • 武村雅之(1990):日本列島およびその周辺地域に起こる浅発地震のマグニチュードと地震モーメントの関係, 地震, 第2輯, 第43巻, pp.257-265.

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