2−3.統合化のイメージ

 ひとくちに「統合化」といっても、その内容については、データを生成し提供する側やそのデータを利用する側、それぞれの立場に応じて、異なるイメージを抱くのは自然のことである。
 「統合化」された状態としては、地震防災に役立つ基礎的な資料および加工資料、すなわち、基礎的資料に基づいて作られた二次的なデータや簡略化、抽象化、総合化などの技術的・研究的手順を経た結果としての地球内部の各種のモデルなど(以下、これらを地下構造データ類と称する)が、一体となって管理され、社会的要求に応じてスムースに流通している状態が、理想的であるといえよう。さらに、その流通する流れの中でさらに、データが増強され、モデルが精緻化されるイノベーティブな動きが奨励される環境があれば、よりいっそう理想的である。このような状態は、データの管理運用面においても、効率化に資する。
 3−1節では地下構造データ類の取り扱われ方の現状を概観することとするが、このような理想的な状態へ至る道筋は決して容易ではない状況にある。そこで、「統合化」データベース利用者側の利・活用の方法を切り口にして、個々の要望を整理することにより、「統合化」データベースのイメージをやや具体的にしてみたい。
 利用者側からの主な要望としては、以下の5点がある(図-1)。

  1. 機関横断的利用
  2. 地域横断的利用
  3. オリジナルデータから構造モデルデータに至る多様なデータ内容
  4. 学際的、分野横断的利用
  5. 利便性

1)機関横断的利用

  地震防災のための基礎資料となる強震動予測に必要なデータは、主に土木・建築事業の主体となる民間・個人、地方公共団体、国の直轄機関、および大学等諸研究機関などにより生成され、保持されている。このようなさまざまな機関が生成する地下構造データ類が、より広範に開示され、学術的・技術的に利用されることが望まれる。

資料生成にかかわる機関 機関横断的利用のためのポイント
国および旧公社・公団系 強震動予測においては、大量の信頼できる地下構造データが不可欠であるので、各機関が生成し、所有するデータを相互に参照できることが肝要。
研究機関(国立・民間)
地方自治体(都道府県)
地方自治体(市区町村)
民間事業者

2)地域横断的利用

 上記の機関、特に地方公共団体や国直轄機関の場合、生成する資料の分布範囲が特定の地域に限定されることが多いが、地震防災においては地域的な独自性の評価とともに、自治体の範囲を超える広域的な評価をする場合や全国的に一律的な評価が求められることも多い。その意味で、特定の地域のみがデータの開示性が高いということではなく、全国的に一定のレベルで地下構造データ類が参照できることが望まれる。

資料生成の対象となる地域レベル 地域横断的利用のためのポイント
全国レベル(国交省などが収集する資料) 強震動予測は全国各自治体などで行われており、今後も地学的所見・研究成果の発展に伴い、見直されるべきである。その意味で、データを収集しデータベース化を図る地域は限定されるものではない。我が国の災害対策に関わる成果を国際的に利用し諸外国の防災や減災に役立てることも重要な使命。
地方レベル(地方整備局に蓄積される資料、広域地盤図資料など)
都道府県レベル(県が独自に収集・保管している資料など)
市区町村レベル(市区町村が独自に収集・保管している資料)
国外

3) オリジナルデータから構造モデルデータに至る多様なデータ内容

a)オリジナルデータの開示
 各種事業ならびに研究等により取得された記録そのもの(オリジナルデータ)を相互に参照できることが望ましい。

b)ある程度整理されたデータの開示
 上記a)のオリジナルデータの場合、記録の方法、記録保存の形態、分量等の点で、専門性が高く一般性に欠ける、ボリュームが大きい、など流通を図る上での阻害要因となる要素が多い。そのため、例えば、ボーリング資料であれば一定の形式へ変換する、その他の記録類であれば、一定の処理手順を経た後であっても地下構造データ類の資料価値は十分高いので、それらを交換可能な形式を明示した上で、相互利用できることが望ましい。この範疇には、概念的には論文や各種の国レベルの諮問機関、委員会等で論議された資料ならびにその背景情報等も含む。既に、汎用的な論文データベースは他にも存在しているが、地下構造データ類に関しては、既存のデータベースで前例とするべきものが少なく、優先性は高い。
強震動予測成果などのデータの開示は、基礎的資料を開示する機関へのフィードバックともなり、データベースの利用をさらに促進させる要因として重要である。

c)モデルデータの開示
 研究等の集積の結果としての地下構造モデルは、それ自体で貴重な知的資産であるので、相互に有効に活用されることが望ましい。また、さらに新たなデータ・解析等を加え、変更し、精緻化した結果をも「統合化データベース」へ登録するといった、循環的(サイクリック)にモデルを更新する場、いわば「コミュニティ」的な場が提供されれば、さらにデータベースの有用性は増すものと思われる。

資料の内容 データ開示のポイント
地下構造モデル(速度分布モデル、地層境界面分布モデルなど) 強震動予測においては、地下浅部から深部に至るデータをもとに、地下構造をモデル化する作業が不可欠である。新資料の追加・拡充により、既往のモデルの見直し、精緻化等々の作業は、繰り返し発生するため、モデル生成に関連する資料を開示し、相互に利用できることが重要。
処理ないしはコンパイルされた地下構造データ類
調査結果(オリジナル資料)
論文・資料
その他公的文書

4) 学際的、分野横断的利用

 上記1)から3)と同様であるが、地下構造データ類が生成される事業分野、学問分野の壁を乗り越えて、資料を利用できることが望ましい。具体的には、土木・建築事業等による浅部ボーリング資料と、より深部の地下構造についての情報である理学的調査研究資料を融合的に利用可能となる状態である。

資料が生成される分野 学際的、分野横断的利用のポイント
(浅部地下構造)土木建築分野での利用のための地盤調査 強震動予測においては、地下浅部から深部に至るデータが用いられるが、それぞれのデータはその特性に応じて工学および理学分野で生成されることが多い。各専門分野を越えたデータの利用が積極的に行なわれることが重要。
(浅部〜深部地下構造)地震工学分野や資源開発分野(鉱物・炭化水素・地熱など)での利用のための地下調査
(深部地下構造)地球物理学的調査研究分野(地震学・重磁力による地下構造調査など)
(浅部および深部地下構造)地質学・地形学分野
その他関連する分野

5)利便性

 地下構造データ類へのアクセスは容易であればあるほど歓迎される。特にインターネットなどいまや半公共的となった手段を用いて、地下構造データ類の検索・参照等が可能となれば、利便性が高い。この場合、地下構造データ類それ自体が一箇所で集中的に管理されている状態は必ずしも必要がなく、少なくとも一定の標準化された形式の内容をもつメタデータがネット上を流れ、地下構造データ類本体へアプローチできる手がかりを提供する仕組みがあれば、より軽量な検索紹介および参照が可能となる。

 このような要望に応える統合化地下構造データベースは、人間活動に影響を及ぼす可能性のある深さの範囲について表層地盤構造から地震発生域まで、すなわち、地表から地下100km程度までを対象として、工学目的および理学研究のために取得された調査研究の成果・資料がシームレスに利用可能となり、防災のための研究、施策立案、などに有用となるとともに、民間や地方自治体以下の小単位での自助的な防災活動等のための資料としても、今まで以上に既存の資料類を有効に活用する手段を提供するようになることが期待される。さらに、新たに取得される地下に関する情報が組織的系統的にデータベースへ追加・更新できる仕組みを備えることで、常に最新の情報に基づいた活動が展開可能となる。


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