2.地下構造データベースとその統合化の目指すもの

2−1.何のために必要か

 わが国は世界有数の地震・火山国であり風水害を含め自然災害が多発しやすい地学的条件の下にある。過去、我が国で死者が千人を超えるような自然災害は、洪水、高潮、津波および地震によって引き起こされてきた。これは、一般に軟弱な地盤条件にある平野部に人口が集中しており、高度で集約的な経済活動が営まれていることにより被害が拡大する傾向にあるためといわれている。切迫性が高いとされている東海地震や東南海・南海地震、宮城県沖地震などにおいても、被害の規模も大きく、かつ影響する範囲が広いなど、社会経済への影響が甚大であると、予想されている。このような将来に発生するであろう災害を考えたとき、地震動の予測のための調査研究は、防災および減災に向けた施策を進める上で極めて重要である。これまでの研究により、兵庫県南部地震における震災の帯などの現象をはじめとする地震動による災害の有無・程度は、表層から地下深部に至る地盤の物理的条件・状態、すなわち地下構造、に大きく依存することが指摘されている。
 深部の地下構造については、地震調査研究推進本部が平成11年4月に決定した「地震調査研究の推進について−地震に関する観測、測量、調査および研究の推進についての総合的かつ基本的な施策」に基づき、人口稠密な平野部を中心にやや深部に至る地下構造調査を行っている。現状は対象とする地域が限定されている状態であり、国土を網羅的に捉える観点からは、まだ十分とはいえない状況である。 
 また、地盤のゆれやすさを支配する主要な要因である浅部の地下構造については、地下掘削(ボーリングなど)による調査成果を地質学的・工学的に細かく吟味する必要がある。これらのボーリングデータは公共事業によるものと、個人ないしは民間によるものに大別される。しかしながら、いずれも社会基盤整備や建物の建築、土地造成、地下水開発などの土木・建築事業等によりもたらされることが多いため、国土を一定の密度で網羅しているとは言えず、なおかつデータとして散在しているという実情にある。
一方、地震防災に関わる社会的必要性を背景とする学術的・技術的な面から、広域を網羅した多面的な地下構造情報が必要であり、不足する情報の早急な取得と合わせ、地下構造情報の総括的管理・活用体制の速やかな整備が強く求められている。
 地下構造に関する情報の多くは経時的に変化する性格のものではなく、いわば静的な性質を持った情報であるため、そのデータベース化は長期的視点に立てば、国土の成り立ち・保全に関わる科学的理解に関する国民共有の国家財産をもつということを意味している。
イギリスやオランダなどの一部先進諸外国においては、国土保全・資源管理・地下水環境保全などを目的として、一定の深さ以上の地下空間に対する社会的・経済的活動を監視しており、地下掘削あるいは採取事業に対して、地下構造ならびに試験等の成果の提出を法的に義務付けている例がある。また、これらの国などでは、国民共有の知的財産であるという観点から、収集した地下構造に関する地球科学的情報・研究資料等の資料およびデータを、統合的地下構造データベースとして、専門の国家機関が系統的に整理・保管し、一部は開示(公開)している例もある。
 このように、わが国においても、地下に関する資料データは、すべての国民に共通なリスクである地震被害を抑止するための公共的で永続的な知的財産として位置付けられるべき性格のものであり、その利活用を計るための環境を整備・実現する方策が推進されるべきである。このような方策は、環境・防災を基調とする「持続可能な発展」を目指すための基本情報整備の一環とも位置付けられる。


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